
「大阪の台所」と呼ばれる場所はいくつかありますが、発酵食品好きにとっての聖地といえば、間違いなく「大阪コリアタウン」(コリアンタウン)でしょう。
鶴橋から生野にかけて広がるこのエリアは、日本最大級の韓国人街として知られ、平日でも多くの観光客や買い物客で賑わっています。
コリアンタウンに一歩足を踏み入れれば、そこはまるで異国。
店頭に積み上げられた色鮮やかなキムチ、香ばしいごま油の香り、そして威勢の良い掛け声が飛び交います。
しかし、この街の魅力は「韓国の味」だけではありません。実は、古くから続く日本の下町文化も色濃く残っており、韓国のキムチ文化と、日本の伝統的な漬物文化が見事に共存している、稀有な場所でもあるのです。
今回は、鶴橋で70年以上漬物屋を営む玉井商店が、プロの視点から「コリアンタウンの漬物文化」を徹底ガイドします。
初めての方でも安心して楽しめるお店選びのコツから、キムチと日本の漬物を組み合わせた新しい食卓の提案まで、たっぷりとご紹介します。
コリアタウンとは?〜御幸通商店街を中心とした発酵の街〜
一般的に「コリアタウン」(コリアンタウン)と呼ばれるエリアは、実は大きく分けて2つあります。
一つはJR・近鉄鶴橋駅周辺の高架下に広がる「鶴橋商店街」。
そしてもう一つが、そこから南東へ徒歩15分ほど歩いた場所にある「御幸通(みゆきどおり)商店街」を中心とした「大阪コリアタウン(生野コリアンタウン)」です。
御幸通商店街の特徴
御幸通商店街は、東西約500メートルにわたるメインストリートに、約120店舗が軒を連ねています。その密度は圧倒的で、キムチ専門店だけでも数え切れないほど存在します。観光客向けのおしゃれなカフェやコスメショップが増える一方で、地元の人々の食卓を支える「生活市場」としての機能も健在です。
ここでは、発酵食品が日常の一部です。キムチはもちろん、韓国味噌(テンジャン)、コチュジャン、そして日本の糠漬けや梅干しも、同じ食卓に並ぶのが当たり前の光景なのです。
コリアンタウンで出会える漬物の種類
この街を歩けば、見たこともない種類の漬物に出会えます。「漬物=保存食」という枠を超えた、豊かな食文化の世界を覗いてみましょう。
奥深い「キムチ文化」
多くの人がイメージする「白菜キムチ」は、ほんの氷山の一角です。コリアタウンの専門店では、常時30種類以上のキムチが並んでいます。
- 定番:白菜、大根(カクテキ)、きゅうり(オイキムチ)
- 海鮮系:チャンジャ(タラの内臓)、ケジャン(ワタリガニ)、牡蠣、イカ、タコ
- 野菜系:セロリ、長芋、小松菜、ネギ(パキムチ)、トマト、らっきょう
- フルーツ系:リンゴ、柿など(季節限定)
特に海鮮系のキムチは、日本の「塩辛」に近い感覚でお酒のアテとしても人気です。また、「水キムチ」のような、辛くない乳酸菌たっぷりの汁物キムチも、健康志向の方に注目されています。
日本の伝統漬物との共存
驚かれるかもしれませんが、コリアタウンの中やその周辺には、日本の伝統的な漬物を扱うお店もしっかりと根付いています。韓国系の店舗でも、日本人好みにアレンジされた「かつお風味の梅干し」や「昆布仕立ての白菜漬け」が売られていることがあります。
これは、在日コリアの方々が日本の食文化を取り入れ、また日本人が韓国の味を受け入れてきた、長年の文化交流の証でもあります。この「ハイブリッドな漬物文化」こそが、大阪コリアタウンの真の面白さなのです。
失敗しないキムチの選び方|専門店での賢い買い方
たくさんのお店がありすぎて迷ってしまう方のために、プロが教える「美味しいキムチの選び方」を伝授します。
1、「味見」はマスト!遠慮せずにリクエストしよう
スーパーのパック詰めと違い、専門店の最大のメリットは「味見」ができることです。
見た目が同じように見える白菜キムチでも、お店によって「甘み重視」「酸味重視」「辛味重視」「魚介のコク重視」と、味の方向性が全く異なります。
「辛さ控えめなのはどれですか?」
「酸味がある古漬けはありますか?」
と店員さんに声をかけ、自分の好みを伝えて味見をさせてもらいましょう。これが失敗しない一番の近道です。
2、色と艶(ツヤ)を見る
美味しいキムチは、唐辛子の色が鮮やかで、野菜に自然な艶があります。特に白菜キムチの場合、白菜の芯までしっかりとヤンニョム(調味液)が染み込んでいるかどうかがポイントです。不自然に乾燥していたり、水っぽくなっているものは避けましょう。
3、量り売りを活用する
「1キロも食べきれない」という心配は無用です。多くのお店では、500gや300gといった少量からの量り売りに対応してくれます。複数の種類を少しずつ買って、「自宅でキムチバイキング」を楽しむのもおすすめです。
コリアタウンでの漬物めぐりモデルコース
効率よく、かつ深く楽しむための散策ルートをご提案します。
【午前中】JR鶴橋駅からスタート
まずは鶴橋駅周辺の商店街で、市場の熱気を感じましょう。ここでは乾物や韓国海苔、チヂミなどの食べ歩きグルメも豊富です。
【昼】御幸通商店街(コリアタウン)へ移動
徒歩約15分でメインストリートへ。有名店(山田商店、北田商店、眞味食品など)を巡りながら、気になったキムチを味見。ランチにはスンドゥブチゲや冷麺など、発酵食品を使った韓国料理を楽しみましょう。
【午後】疎開道路を通って鶴橋方面へ戻る
帰りは「疎開道路」と呼ばれる大通り沿いを歩いて鶴橋方面へ。この通り沿いにも、知る人ぞ知る名店が点在しています。
【夕方】玉井商店で「日本の味」を調達
最後に、鶴橋にある玉井商店へお立ち寄りください。コリアタウンでパンチのあるキムチを買った後は、ホッと落ち着く「日本の味噌」や「たくあん」「白菜の古漬け」はいかがでしょうか。
キムチと日本の漬物を楽しむ「ハイブリッド食卓」の提案
「キムチには韓国料理しか合わない」と思っていませんか?実は、日本の伝統的な漬物と組み合わせることで、食卓がもっと豊かになります。
ご飯のお供最強セット
炊きたての白ご飯に、「白菜キムチ」と「たくあん」を一緒に乗せてみてください。キムチの辛味とコク、たくあんの甘みとポリポリした食感が、口の中で絶妙なハーモニーを奏でます。お互いの味を引き立て合う、最強のコンビネーションです。
発酵鍋のススメ
冬場におすすめなのが、キムチと日本の味噌を合わせた「発酵鍋」。
キムチチゲのベースに、日本の白味噌を隠し味として加えると、辛味がマイルドになり、深みのあるコクが生まれます。具材には日本の白菜漬けを入れても美味しくいただけます。
お酒のアテ盛り合わせ
チャンジャ、クリームチーズの味噌漬け、きゅうりのぬか漬け。この3点を盛り合わせれば、ビールにも日本酒にもワインにも合う、パーフェクトなおつまみプレートの完成です。
保存方法とアレンジレシピ
たくさん買いすぎても大丈夫。正しい保存とアレンジで、最後まで美味しく食べきりましょう。
保存のコツ:空気を抜いてチルド室へ
キムチも日本の漬物も、敵は「酸化」です。買ってきた袋のままではなく、密閉容器(ガラスやホーローがおすすめ)に移し替え、表面にラップを密着させて空気に触れないようにしましょう。冷蔵庫のチルド室など、温度変化の少ない場所が最適です。
酸っぱくなったキムチの救済レシピ
日が経って酸味が増したキムチは、炒め物に最適です。「豚キムチ」はもちろん、細かく刻んで「チャーハン」や「餃子の具」にすると、酸味が旨味に変わります。日本の古漬けも同様に、ごま油で炒めて醤油で味を調えると、絶品の常備菜になります。
漬物の冷凍方法を解説した記事はこちらです。
季節ごとのおすすめ(コリアタウン・鶴橋編)
訪れる季節によって、狙い目の漬物は変わります。
- 春:新キャベツのキムチ、菜の花の浅漬け、わけぎのフェ(酢味噌和え)
- 夏:オイソバギ(きゅうりの挟みキムチ)、水キムチ、水なすのぬか漬け
- 秋:カクテキ(大根が甘くなる時期)、きのこの醤油漬け、高菜漬け
- 冬:牡蠣キムチ(冬季限定の贅沢)、白菜のふすま漬け、べったら漬け
よくある質問(FAQ)
Q. コリアンタウンと鶴橋商店街、漬物を買うならどっち?
A. 目的によります。種類の豊富さと本場の辛さを求めるならコリアタウン(御幸通)がおすすめ。駅からの近さと、日本の漬物や乾物も含めた総合的な買い物をしたいなら鶴橋商店街が便利です。どちらも徒歩圏内なので、両方回るのがベストです!
Q. 電車で持ち帰る時、匂いが心配です。
A. 安心してください。このエリアのお店は「匂い対策」のプロです。専用の「キムチ臭カット袋」に入れてくれたり、ラップで何重にも巻いてくれます。心配な方は、ジップロックや保冷バッグを持参するとさらに安心です。
Q. 辛いものが苦手な子供でも食べられる漬物はありますか?
A. はい、たくさんあります。韓国の「水キムチ」は辛くなく、乳酸菌たっぷりで子供にも人気です。また、韓国海苔やナムル、そして玉井商店にあるような「たくあん」や「甘口の梅干し」なら、お子様でも喜んで食べていただけます。
Q. キムチの賞味期限はどれくらいですか?
A. 商品によりますが、冷蔵で約2週間〜1ヶ月が目安です。ただし、キムチは「腐る」というより「発酵が進んで酸っぱくなる」食品です。酸っぱくなったら加熱料理に使うなどすれば、長く楽しめます。
Q. 通販で買えるお店はありますか?
A. はい、多くの有名店がオンラインショップを持っています。重たい荷物を持ち帰りたくない場合や、遠方へのギフトには通販が便利です。もちろん、当店・玉井商店もオンラインでのご注文を承っております。
コリアタウンの後は、鶴橋「玉井商店」で日本の味を
異国の活気あふれるコリアタウンを楽しんだ後は、
少し足を延ばして鶴橋の「玉井商店」へお越しください。
創業70年、市場の歴史と共に歩んできた当店では、
ホッと心が和む「日本の伝統的なお漬物」や「こだわりのお味噌」をご用意しています。
「キムチの後は、やっぱりたくあんで締めたいな」
そんな日本人の舌に寄り添う一品が、ここにあります。
店主との会話を楽しみながら、あなただけのお気に入りを見つけてください。
玉井商店
〒537-0024 大阪市東成区東小橋3丁目18-11
TEL:06-6971-8438
営業時間:8:30〜14:00
定休日:水曜日・日曜日・祝日
JR鶴橋駅・近鉄鶴橋駅から徒歩3分
最後に〜発酵の力で、食卓に笑顔を
大阪コリアンタウンから鶴橋にかけてのエリアは、世界でも類を見ない「発酵食品のテーマパーク」です。国境を超えて愛されるキムチと、日本人が守り続けてきた伝統の漬物。その両方が当たり前のように並ぶこの街の風景は、まさに食文化の豊かさそのものです。
「今日はどのキムチにしようかな」「久しぶりに美味しい味噌汁が飲みたいな」。そんな食への好奇心を胸に、ぜひこの街を歩いてみてください。
新しい味との出会いが、あなたの毎日の食卓をもっと楽しく、もっと健康にしてくれるはずです。私たちは鶴橋の市場で、皆さまのお越しを心よりお待ちしています。
